ガンディーニのクアトロポルテ(その29:エンジンの⑲)
はい、皆さんご機嫌はいかがでしょう。
三日ぶり、ガンディーニのクアトロポルテねた:エンジン編。前回までに「DOHC4バルブ」の部分までだいたいの説明はいたしましたが・・・、
ガンディーニクアトロポルテのエンジンスペックは
「水冷90度V型6気筒(8気筒)DOHC4バルブ インタークーラー付ツインターボ」でしたね。
で、今日はまた「気筒配列:V型6(8)気筒」部分の説明の補足から。ハナシがいったりきたりですみません。クランクシャフトのハナシです。
まあ、前述のように「ビトルボマセラティ」のエンジンは、マセラティ史的には、その概念上「V8をぶった切って作ったV6エンジン」であるわけですが、ロードカー用のV型エンジンには、長年にわたり、そのクランクシャフトは90度(ダブルプレーン)を採用しています。90度というクランク角の意味は、隣り合うピストンを動作させる、コネクティングロッド(コンロッド)の穴のデカイ方(俗にビッグメタル側)が取り付くクランクシャフト側の軸(クランクピンといいます)同士の位相が90度・・・要は、隣り合うクランクピン同士が必ず直角に配置されてる・・・、ってクチで云ってもぜんぜんわからないと思いますが(笑)、もっと詳しく理解したいヒトはこの機会にウイキペディアでも検索して勉強してみてください。
ちなみに、ビトルボマセラティの中でも、シャマル用V8だけが、180度クランク(シングルプレーン:隣り合うクランクピンが、必ず直線上の両端にそれぞれ位置する形態)を採用しており、近年のフェラーリV8もみんなコレで、アイドリング時には独特のパルス感が出るので、「うおー、スポーツカー」感のあるエキゾースト音は、ひとしお快感ではあります。
V型90度のバンク角を持つ8気筒エンジンの場合、静粛性とスムースネスな回転のためには、ダブル(クロス)プレーン(90度クランクシャフト)を用い、レスポンス向上の味付けが欲しい場合は、構造上カウンターウエイトを持たない(ということはクランクシャフト自体が軽い)シングル(フラット)プレーンを採用するといった感じです。まっ前者がジェントルな味なら、後者はスポーティーでレーシーな味といった感じでなんとなく覚えておいてください。
但し、同じV型90度でも、6気筒ではハナシが変わってきます。90度クランクシャフトのまま、8気筒を「ぶった切って」6気筒にしちゃうと、そのままでは、「不等間隔爆発(着火)」という状態になります。で、ビトルボマセラティのV6車はまさにコレなんですね。それで、あの独特のアイドル時のパルス(振動)が出ているのです。222系(4Vを除く)や、430系、スパイダーザガート、カリフ、228までのビトルボシングルカム車は全車こうです。クアトロポルテやギブリなど、フィアット傘下期に入ってデビューしたクルマでは、この90度(バンク角:シリンダーの開き角度)V6で90度(クランク角)のままなので、当然「不等間隔着火」なのですが、エンジンのマウントなどに良いものを奢り、防音防振材をふんだんに使った結果、室内に伝わる振動はかなりジェントルになってます。そもそも、「イタリアンスーパーカー」の顧客はこの「いかにも、レーシングユニット由来のエンジンっぽい」粗野で獰猛な雰囲気を好んでいたものですが、時代の流れで、というか、ドイツ車や日本車の「静粛でスムースネス」なエンジンにならされてしまった結果、もっと、「スムースなものを」との要望に応えて出来たのが、クアトロポルテV8のエンジン(90度クランク)というわけです。
ですから、クランクケースやカムカバーの造形はそっくりですが、シャマル用のエンジンとクアトロポルテV8のエンジンはエンジンのキャラクター的にも、心情的にも、まったく相反するものと云えましょう。
これを機会に、エンジンのスペックを見る場合、このクランク角に注目してみては如何でしょう。
このクランクシャフトに関連して云えば、ビトルボエンジンのクランクシャフトの前端部と後端部には、クランクシャフトシールと呼ばれる、特殊素材のオイルシールが用いられ、フロントシールの方は、カムタイミングベルトの交換時についでに行なえるもので(それでも大変だけど)すが、リアシールから「ドバドバ」と漏ってる場合は、まず、エンジンのバンク上に乗っかってる「インジェクションユニット」をインテークマニホールドごと降ろし、なぜかミッションのベルハウジングケース側に付いてる(どーして、イタリア人はこういう設計するかなあ:泣笑)スターターモーターをはずした上、車体をリフトアップ。今度はエキゾーストユニットを後ろのタイコ部から前へ前へとすべてはずしていきます。次は、プロペラシャフトをセンターサポートベアリングもろともはずし、(はあはあ、ちょっとお休み:笑)返すカタナで、今度はフロントの左右ホイールをおろし、左右のパワーステアリングラックエンドをハズシ、エンジンマウント・ミッションマウントをすべてはずしつつ、フロントサブフレーム全体を下にズラした状態を作り、パワーステアリングユニットを降ろす。最後にミッション下部をドーリーで支えつつ、エンジンとミッション間の結合ボルトをはずしていき、ようやくミッション本体とエンジンが分離いたします。そうして、「後ろ側がズンだれた状態」でぶら下がってるエンジンの後にある、リアシールの交換作業(これが、ここでの本論なんだよなあ:笑)がやっと行なえます。
というわけで、リアシールが漏ってるのを正式に直すには、「ミッション脱着作業」が不可欠ですから、ミッションオーバーホールのついでにヤルのが理想的なんですが、ミッションの寿命とクランクシールの寿命はぜーんぜんリンクしてないもんで(シールの方がはるかに早くダメになる)困ります。
以上のハナシは、ビトルボエンジンのマセラティでは、すべてが対象になるハナシですから、ご購入の際は必ずチェックした方が宜しいかと思います。微細なモレやにじみは当たりまえと思った方がよさそうですけどね(笑)。あるお店(略称M・D:笑)では、「オイルが漏るのは、エンジンオイルが入っている証拠」と笑いながら嘯いております。
「キーンコーンカーンコーン」
今日の講義はこれにて終了!
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» パサート(PASSAT) 4代目・5代目で新時代へ! [パサートで行こう!]
流麗にフラッシュ・サーフェース化されたフロントマスクとボディがそれまでのパサートとは一線を画すモデルとして好評を得た3代目の後、GOLF(ゴルフ)にも搭載された新開発VR6エンジンを搭載して登場したのが、1994年から日本でも発売された4代目のパサート。新時代を目指すフォルクス・ワーゲンは各車種の足並みを揃えるべく、このパサートのグリルを一般的なグリルに戻し、ある意味での刷新を図ろうとします。そして、1997年には5代目が登場。フォルクス・ワーゲンはアウディの他にシュコダやセ... [続きを読む]
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「不等間隔爆発(着火)」は、前にも聞かせていただいたような。
初めてビトルボを見せていただいたとき、エンジンルームの造形美に感動。エンジンがぶるぶる振動していて、「すげ〜、生きてる!生き物みたい・・・こんなに振動してて大丈夫?」と感激と不安を同時に味わいました。で、車内を見ると、妖しげな茶革の内装にびっくり。高級感と共に妙に安っぽいところともあり、手造り感満載の内装とあいまったトータルの質感が、なんとも妖しげで魅せられました。
岡本さんたちは笑顔で「いいでしょ?」とは言うものの「買ってね」とはいいませんでしたが、誰かが頭の中で囁くのです。
(買っちゃえ! 買っちゃえ! このチャンスは二度と無い)
・・・だから、買っちゃいました。
投稿: Ryo | 2008年9月19日 (金) 18時25分
それでは、シャマルのエンジンは他の車に載っているのでしょうか?4Vのエンジンは90°ではなくなんなんでしょうか?すみませんねえ、今資料が手元にないもんで。教えてください、ネモ!
投稿: りゅたろう | 2008年9月19日 (金) 22時13分
ほぉほぉ。
これは楽しい。
シャマルは180度だったのね〜。
全然異質なものを感じてたのは、そういうことでしたか。
しかし、クランクシャフトシールのくだりを読んでるだけで
気が遠くなる…。
そりゃ納車もある程度時間がかかりますな。
ま、わたしゃ「待てない派」なんで、基本的に出来上がったものしか
買えませんが。(忍耐力ゼロ)
なんか面白いの出ないかな〜?ブルー革の430とか…(まだこだわってる:笑)
因みに、ビトルボで一番好きな色はダークアクアマリンです。
今にして思えば、春日町時代にあったダークアクアマリンの
スパイダーや228に踏み切れなかったのは失敗だった。
日本にある、まともなビトルボなんて数えられる程しか無い…
という事は当時は知りませんでしたしね〜。
投稿: 松戸のS | 2008年9月20日 (土) 01時42分
私が最近飼ったV8、シングルプレーンかダブルプレーンか調べたんだけどもなかなか出ていないんですよね。
(ごめんねマセじゃないのよ・・・)
ディーラーに聞いてみたけど返事まだない・・・
変な顧客だと思われるのが嬉しい。
投稿: だんちょ | 2008年9月20日 (土) 23時52分