ガンディーニのクアトロポルテ(その18:エンジンの⑧)
えー、当連載(その11:エンジンの①)で、4カムDOHC車になってからの特徴として、最後に挙げた「冷却系のキモ⑦:シリンダーヘッドガスケット(新品時の組み付け不良、暖気省略走行)が抜けかかってるマシン多し」の項につき、これまで一切の説明を忘れておりました(笑)ので、追加しておきます。
3バルブヘッドの時期はVバンクを覗くと、冷却水がスタッドボルトを伝わって上がってきた上に、バンクに「チャプチャプ(笑)」と「みどりのお水が」溜まっているのが見えたので、比較的、スグ見つけやすかったのですが、4カム車(クアトロポルテも該当)の場合、パッと見、わかりづらいのがヘッドガスケットの「抜け」。フツーのクルマでは、ヘッドガスケットが抜けるというのは、オーバーヒートさせる以外の原因では、まーず、ありませんが、マセラティの場合、フツーじゃないので、オーナーの扱い方次第では、早期にダメになります、とは申しましても、一番多いのは、冷却水路にエンジンオイルが混じるタイプの抜け方で、冷却水にラード状物質が徐々に混じってくるのが、コレです。全力走行時に完調のものと較べると、力がウスいのが分かりますが、コレに気づくヒトは相当エキスパートの方だけでしょう。現在市場に通常出回ってる多くのクアトロポルテ&3200GT&ギブリは多かれ少なかれ、この症状が出ているものです。あまり気にするコトもないでしょう。看過できないのは、エンジンオイルラインに冷却水が回ってるヤツで、このタイプのガスケット抜けをおこしているものをツカまされたら、相当な根性が必要(笑)になりますので、購入時には、チェックが必要です。エンジンオイルのディップスティックをひきぬいて、白っぽいラード状物質が大量にスティックについて出てくるものは、エンジン内部やターボシャージャーに潤滑不良に起因する、深刻なダメージを与える(あるいは、すでに逝っている:笑)可能性がありますので、ヤメておいた方が無難でありましょう。また、どこも漏れてないのに、ものすごく冷却水が減るクルマは大概コレです。まっ、いずれの場合もキチンとヘッドガスケット交換を施し、ついでにバルブクリアランス調整(タペットシム交換)をやれば、バッチリなんですが、これは非常に高価につきます。現在、当店の送り出す4カム車では、少しでも疑わしいものはすべて納車時にヘッドの分解整備を行なって、お納めいたしておりますので、ご安心を。
さてさて、ここからは昨日のつづき、今日の本題なんですが、本日は、クアトロポルテのエンジンスペックにちなんで、様々なエンジンの構造上の進化について一説ブっておこうと思います。メカ音痴の方にもお分かり頂けますよう、もんのすごーく基本的な部分だけお話いたしますので、当店エキスパート級顧客には、いささか物足りないとは思いますが、そういったお客さんには御来店頂ければ、イヤというほど(コレばっか:笑)オハナシさせて頂きますので、どうか、ご容赦を。
水冷90度V型6気筒(8気筒)DOHC4バルブ インタークーラー付ツインターボ
クアトロポルテのエンジンスペックはコレでしたね。
まず「水冷」。
エンジン冷却理念の一つです。エンジンの「筐体(本体ケース)」たる、クランクケースやその上に乗っかるシリンダーヘッド(ケース)には、主に、シリンダーを取り囲むようにして、冷却水の経路(貫通穴)が開いており、この中を「エチレングリコール水溶液」たる、LLC(ロングライフクーラント)が流れ、これらケースに伝導してくる、摩擦熱(シリンダー内壁と高速往復運動を繰り返すピストンリングがコスれることにより発生する熱や、バルブ開閉にともない周辺メカが発する熱等)を奪って、さらに熱を帯びたLLCは、ラジエターまで到達し、そこで適温に冷却された上で、またエンジン内部に経路に戻っていきます。コレの繰り返し。ちなみに、皆さんは、オーバーヒートには過敏ですが、実はエンジンにとって最も過酷なのは、オーバークールであることをご存知ですか?東京でも、真冬には氷点下3℃や5℃になることも珍しくありません。このような気候下で、暖気無しでいきなり爆走(笑)すれば、ひ弱なイタ車どもなどは「イチコロ」でぶっ壊れます。そこで、先日このコーナーでご説明した、「ラジエターサーモスタット」が登場するわけです。そもそもこれは、何のために付いてるのかと申しますと、エンジン内部に循環するLLCを早期に「適温:80℃以上」にもっていくためのメカなんです。このサーモスタット、ビトルボエンジンの場合には73℃で開くよう設計されております。せめて、水温計が動き出すまでは、走行を控えて頂ければエンジンの寿命を延ばすには都合がいいんですけどね。まあ、たいへんな「騒音(泣)」を発生させるマシン達ですから、マンション住いのお客さん方は、よっぽど心臓に毛がはえてないと、充分な暖気が出来ないかもしれません。そのような場合は、走行開始後はそろそろと、おもて通りにでるまでの間、30〜40Km/hくらいの速度で、できるだけ「定速(ギクシャク走らない)」を保って暖気しながら走行すれば大丈夫です。ついでに云えば、水温が75℃以上になったからといってスグに全開走行では、マシンがあんまり可愛そう。クルマはメカの塊ですから、エンジン以外の部分、例えばミッション内部やデファレンシャルギア内部なども定速走行しながらジックリと暖めてやりたいところですね。この辺のハナシはおいおい別項にて詳しくやります。
この「水冷」方式を一歩推し進めたものに「油冷」というのがありますが、80年代初頭にスズキ製のオートバイなどで試されましたが、自動車用としては今ひとつポピュラーにはなってこないようです。
また、「空冷」方式というのも、聞いたコトはあると思います。これは、オートバイの世界では、いまだにポピュラーなエンジンの冷却方法ですね。クルマの世界では、90年代初頭までのポルシェ911シリーズやVWカブト虫(ムカシのビートル)などで、お馴染みです。国産車では、初代パブリカやその基本構造をそのまま踏襲したトヨタスポーツ800(ヨタ8)などが有名。マイナーどころでは、一時期ミョーに名前の出てきた、旧東ドイツ製の「トラバント」や、旧チェコスロバキア製の「タトラ」各車(このタトラには、空冷V8エンジンなんてとんでもないのがある)など、東欧圏のさむーい地域では、つい最近までポピュラーな冷却構造でした。これは前述のオーバークールに対処するための、一番安価で確実な構造だからです。合衆国の北部地域で、先のVWビートルが60年代に爆発的に売れましたが、こんなところも好まれたのかもしれませんね(まあ、有名な、DDB製の広告も効いたんだろうけど)。
余談ばかりで、次回につづく・・・。
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そうでした。想えばビトルボ系に乗ってたときは
75℃〜90℃の間位しか水温系が上下しないので、冬場なんかは
オーバークールの疑いさえ持ちました。
まぁ、話には水温の事は聞いていたので、「おーこれでいいんだぁ!?」
などと感心したものです。
暖気には結構いろんな意味で気を使いました。
我が家は大型マンションで、二棟に挟まれる谷間に駐車場があり
おまけに殆どの階の窓からは、車が丸見えで…
ビトルボなんか暖気してると、「またあそこのバカだ」
などと思われてたに違いありません。
なんせ、家族は排気音で帰宅が分るようになりましたから。
マセラティの排気音はいいですね。
そこらのお兄ちゃんのマフラーチューンの車とは全く違います。
ドスが効いてて、かつ安っぽくない。
何だか分らないけどとりあえず凄そうです。
エンジン音は余り回らないせいもあってか、たいした事はありませんが…
わたしゃ、始動のセルモーターの音も好きなんですけどね。
「チリチリチリチリ…ボーッボボボボ…」と。
マセラティ、特にビトルボ乗ってからは車の扱いが、非常に丁寧になりました。
これは一つの恩恵といえましょうか。
ATの操作なんかは現代車に乗っても役立つ事です。
よく街中でバックして停止しきらないうちに前進ダッシュ!
してるような車を見かけると「ゾッと」します。
常に音、振動、臭い、計器類は勿論ですが、気を配るようになります。(燃料計と一部のワーニングランプはイマイチあてにならない:笑)
だいたい「80リッターも入らんだろっ」。
次回はマイクロ・デポってどーなの?誹謗中傷シリーズ第二弾
店舗兼工場案内をお送りする予定です。
(いつからシリーズに?)
投稿: 松戸のS | 2008年9月 2日 (火) 11時05分
私はXJ-Sのほうが暖機時に盛大に音を出すので、マセラッティの時は安心しているくらいです。マセラッティも、エアコンを切っていれば暖機時にそんなにうるさくないと思うのですが・・・思っているのは私くらいなもんでしょうか。現代の車でも暖機は大事です。暖機しないと本当に壊れそう。
以前渋滞でトロトロ走っているフェラーリィがF1の音を出していたから、どうしてマセラッティはアンサーのマフラーしてんのにあんな音じゃないんだ!といちゃもんをつけたことがありました。無論岡本3兄弟には冷たくあしらわれましたが。キダスペシャルじゃなくてもF1です。マセラッティは凄くいい音です。ですが、もう少し色気のある音でもいいのに、という思いはありますが、原理主義には通用するはずもありません。
投稿: りゅたろう | 2008年9月 2日 (火) 13時23分