はい、4月に入りました!3月中もたくさんの「新規のお客さん」の御来店を賜りました。心より御礼を申し上げます。そのような皆さんにも、いつものように「イタ旧車の真実」をお伝えするべく、ワタシも相変らず一生懸命に旧車における予防整備の重要さと、それを充分に達成するには「長い納期とコスト御負担」がどうしても不可欠であるコト、欠点や美点を正直におハナシさせて頂いております。
ところで、旧いクルマには旧いクルマに対峙するための「方法論」が必要です。ここのところ、技術相談的なお電話やメールも(常々これだけはヤメてくれとお願いしているにも関わらず)非常に多く、同時に少なからずソレらの対応に時間もとられています。皆さん本当に「いとも簡単に」お尋ねになってくださいますが、ワタシたちが文字通り「心血を注ぎつつ」獲得して来たノウハウを気前よく開陳する気持には到底いたらぬと云う心情を御理解頂けますと有難いです。
ちょっと、今日のお題の本筋からはハズレてしまいましたね。本日は、いまだ2万キロ台の納車整備中クアトロポルテを題材にして、「エンジンオイル交換とか、ブレーキ整備とかの基本的な部分だけでも、コレくらいのネタがすぐに出てくるのが旧いマセラティってヤツなんですよ」といったところを心ある皆さんに掴んで頂ければ有難いと思っております。




エンジンのオイルパンパッキンは定期的に交換をいたします。ゴム製の成型パッキンなどではありませんから、フチに張り付いて残ってしまったカスたちを丁寧に除去する必要があります。この作業だけでも結構時間が掛かります(すでにアブラが膨潤してズブズブになってるパッキンであれば、かえって「ぴろぴろと」キレイに容易くハガれるものですが)。
ここで、過去に「液体ガスケット」によるオイル漏れのゴマカシや、オイルパン取り付けボルトの増し締めによる「ボルト折損」、はたまた「オイルパンの腹打ち」などがあるクルマですと、その作業時間も先が読めなくなるほどの長期に及ぶ場合が出てまいります。
20本に及ぶオイルパンの取付ボルトには締めつけトルク、締める順序がきちんと決まっており、それをただひたすら愚直に守って組み付け作業を進めます。ここには何のトリックもマジックもありません。


ブレーキローターは専門の技術力の高い研磨業者において高精度の研磨加工を施します。
ホイールを取り付ければ、ほとんど目には見えなくなってしまう部分ですが、あたり面以外の部分にサビ止め塗装を施します。これは内製による作業です。たいへん時間と手間が掛かります。


はずした古い方のフロントローターがこちら。この程度の摩耗では、「記録簿を書くため」だけの納車整備であれば、交換や研磨をされるコトは普通ありません。
当店に限らず、「イタ車のココロ」を本当に理解している業者さんなら、きちんと研磨、交換して送り出しているコトでありましょう。


同じくはずしたリアローター。負荷の少ないリアローターディスク面はいよいよ問題が無さそうに見えますが、裏側には「パーキングブレーキライニングのあたり面」があるというコトをお忘れにならないでください。
走行距離の少ないクルマは得てしてこういった通常作動していない(そして、まったく普段見えない)ところにイタみが出るものなのですよね。近づいて見てみます。


やはり、ライニングの当たり面にはサビが出てしまっています。
さらに目を凝らして見ると・・・クモの巣(笑)まで出来てしまっていますね。こういった小動物の機構部分や電気周り部分への侵入は、どのようにガレージ保管しても防ぐコトが出来ません。冬場などはかえって暖かいガレージの中にラットなどが巣喰う(そしてハーネスを齧る:笑泣)場合もあります。当店にそういったクルマが査定で持ちこまれたコトも数多くあります。実は走行距離の少ない(普段あまり乗られてこなかった)クルマでは、こういった個体も(マセラティに限らず)多いのです。特に「ねずみ系(笑)」はどこに病巣が隠れているか判らないので、その兆候が見える個体を当店では忌避しています。


中身のライニングはご覧の様に経年で劣化しています。
このように、通常の制動機構と駐車時の制動機構を別々に持つクルマでは、パーキングブレーキ装置の分解点検も本来は車検ごとに行なうべきでしょうね。
ただし、旧いマセラティでここまでバラす(そして確実に組み立て調整する)のには、幾多の難関を突破する必要があります。ここでソレを詳しくは御説明いたしませんけど(笑)。


足回りの「シメ」はホイール&タイヤというコトになりましょう。
裏側までホイールに附着したブレーキダストをしっかりと洗浄し、懇意のミシュラン専門店にて新品タイヤを組み付け、バランス取りを行ないました。この工程は多くの場合納車直前の段階で行なわれます。何と申しましても、特に洋物タイヤにおきましては「鮮度」が命ですから。




4輪とも組み立てが完了したブレーキ周りです。
安定した制動力を得るまでは、しばらく慣らし運転が必要な状態です。
慣らしがウマくいったマセラティのブレーキは、この前期型Ateキャリパーのもので、充分に優れた非常に好ましい制動タッチを実現してくれます。世に旧いマセラティのブレーキを酷評する御仁がいらっしゃるようですが、どうしてなのでしょうね(笑)。


本日の最後はエンジン。この撮影後、昼飯前には各油脂液体類を充填し、無事に再始動いたしました。
しかしながら、コレで一切がおしまいではありません。
今度はホイールを組みつけ、リフトから降ろします。そして試運転を繰り返し、問題点(主に走行フィールに関わる点)を洗い出していきます。ここだけでも数日が費やされます。 「見た目」だけではなく、「中身も」マセラティとしていくため、信頼性を少しでも上げるためのひと手間です。
創業時より「マセラティ専門店」を標榜してきた当店では、マセラティの素晴らしさをマセラティを愛するお客さんにこそ確かにお伝えする事だけがその使命であると常々肝に銘じております。
それでは、また明日!