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2012年7月25日 (水)

職人のダンディズム

 ・・・初めて逢ったのは、25年前以上前かな。いつも青いツナギ服を着て、頭は白髪混じりの「パンチパーマ(笑)」、そしてトレードマーク」の鼻ヒゲ。当時でも些か時代遅れのマンガに出てくる不良が掛けてるような四角いフレームの銀ブチ眼鏡。そのレンズの奥には、常に鋭い眼光が。とにかく風体がコワい。

 当時の勤め先でたびたび目にするコトのあった、いつもアタッシュケースを手にぶら下げたこの「青ツナギのオヤジ」は、一体何者なのだろうと、思っていました。

 この商売を自らはじめて暫くの間は、なかなか「決定版」たる鈑金塗装業者にめぐり合うことが出来ずにいましたが、その後知り合いの同業者伝手に紹介されたのが、「青ツナギのオヤジ」さんであったのです。

 「ウチは中途半端なシゴトだったら受けませんよ。フェンダーをボカシて塗るなんてヤリたくないからね」とワタシとの初めての会話ではいきなりの先制パンチを繰り出してきやがりました。彼の長い経験の中で、ワタシの姿は「中途半端なシゴトをさせる、コストダウンばかりを狙った自動車屋」と映っていたに違いありません。

 ワタシも反駁しました。「オレは一度も工賃を値切ったコトは無い。但し、ウチの顧客の要求水準は高い。仕上がりがダメなら当然やり直してもらいます。そうで無くてもおたくはこの界隈で一番(工賃が)高いと評判なのだから」

 「そこまで云うなら、一度試しに(仕事を)出してみてくださいよ。お互いやってみないとわからないでしょ」「わかりました。早速お願いします」

 ・・・そんな感じでマイクロ・デポの仕事を受けてくれるようになりました。以来10年以上に亘ってレストアや通常の商品車加修などワタシの期待に応える仕事を淡々とやり続けてくれました。途中、仕事の仕上がり具合に関して闘う場面もたびたびありました。「だーれが、こんなとこボカシていいって云った。だいたいウチはボカシはヤラないよってイバってたのはシャチョーの方でしょ?」「そんなこと云ったって、ウチの職人が出来るっつーモンは出来るんだから・・・だーいたい、こんなに(あちこち広範囲に)塗ったらおたくも商売にならないだろ?」「よけーなお世話ぢゃ!!」クルマを前にしてお互いに声を張り上げながら怒鳴り合いをしたコトも何度かあったように思います。

 盛夏である、この季節になると思いだしますが、鈑金工場の屋上では、「花火大会見物」というイベントも毎年開催してくれていました。取引先は家族も含めて招待され、御近所の方々も「日頃騒音やミスト、クルマの出入りで色々迷惑を掛けているから」とすべて家族ぐるみで呼ばれていました。見かけによらず(失礼!)そういった周囲への気遣いに長けたヒトだったのです。当日、周囲の様々な場所で行なわれている花火大会を360度パノラマで見ることが出来るという、たいへん気の効いたオツなものでした。

 北陸の出身で、季節になると実家の庭で「柿」がとれるらしく、「シブ柿で美味くないだろうけど持ってってカミさんにやれば?」と云っては大量に押し頂くのも風物詩でした。

 マイクロ・デポが春日町の旧店舗から、現在の旭町工房に引っ越す時には、一時的な置き場に窮した大量の部品やクルマ等々をすべて一旦預かってくれ、ホントに助かったものです。おまけに新しい店舗が出来あがってみると、工場内壁の塗装は工事費用に入っていないというタマゲタ話になり、その年の大みそかまで自分たちで塗装を行なうハメになってしまいました。そんなハナシをどこで聞きつけたか、オヤジはいつもの青いツナギを着て、カベ塗り装備一式と無数の養生用シートを持って駆けつけてくれ、朝になるまでカベ塗りをしていきました。感謝してもしきれぬものがあります。

 もう4年ほど前になりますが、「しゃーちょー(ワタシのこと)、もうそろそろ(自分の工場を)ヤメようと思うんだけど、おたくがヤラない?従業員と丸ごとで買い取ってよ」とある時急に云うので、「いやいや、ウチではとても買い切れないよ。でもホントにヤメるつもりなの?」と聞きますと、遠くを見詰めて頷きました。

 その後、2年くらい掛けて従業員さんをひとりひとり順々に新しい職場へと旅立たせ、自分は工場が売れるまでの間、懇意の知り合いから受ける仕事を細々とやっていました。

 今から想えば、老齢から来る自身の体調の変化にも気付いていたのでしょう。心筋梗塞で入院したこともありましたっけ。でも、「検査検査で金ばっか掛かってしょーがないよ」と云っては、結構重症であってもノコノコ自主退院してきて、そのまま「戸田ボート」に行っちゃったりするような、あきれたオヤジでした。

 最後に逢ったのは、1年半くらい前。ウチの陸送屋さんの先代のお通夜に同行した折です。「なんか随分と(カラダが)小さくなっちゃったね」「だって、(手術したあと)ぜんぜん喰えないんだもん。まだ退院して一カ月だからね」・・・そんなやりとりでした。

 その後も風の噂で、再入院しているコトは聞き及んでおりましたが、本人のダンディズムから「見舞われ、朽ちていく姿を見せる事」を拒んでいるらしいというハナシもあり、遠くから気に掛けるにとどめました。

 ワタシは遥かに若輩でありますが、生意気なコトバを随分と叩きつけてきました。だけどオヤジは、その強い語調が「あくまで顧客のため」であるコトを本当に心から理解してくれていました。クルマに愛情を注ぐヒトたちの心情も汲み取ってくれていました。当店のお客さんも多数、そんなオヤジの和光の工場に行ったコトがありましょう(「まぁ、コーヒーでも飲んでって」と、挨拶代わりに云うのも懐かしいでしょ)。

 「赤いちゃんちゃんこ」を着たあとも独身を貫いていたけれど、最後の最後に意中のヒトをメトっていたらしいハナシをはじめて聞いた。「結構ヤルぢゃん、オヤジ!」一陣の風のように飄々と65年を生き、誰にも迷惑を掛けることなく鮮やかに逝った。こんなカッチョいい職人、ちょっといない(合掌)。

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コメント

ワタシもお世話になりました。
昔、デリカでお世話になったときには恐縮いたしました。
イカツイその姿は瞼に残っています。
安らかにお休みください。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

「青ツナギのオヤジ」さんとたこちゃんとのやり取り、そのまま「戸田ボート」に
行っちゃったりするところのクダリは、先日逝去したウチのオヤジとかぶる気がします。
筋が通ってて、人情味あふれるお人柄がよく分かります。

惜しい方を亡くされました。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

筋通す,職人気質の「青ツナギのオヤジ」さんには、お会いする機会はありませんでしたが、こういう話を読ませて頂き、しみじみとさせて頂きました。ご冥福をお祈り申し上げます。

もしかして、ギブリがつぶされた時に置いてあった工場でしょうか。
確かにコーヒーを飲んだ記憶があります。
あの方なのでしょうか。
合掌。

塗装は奥が深く、仕上がりの良さを追求すると果てしなく面倒な仕事です。この前、電話で外装補修の打ち合わせをした時も「予算内で適当に。どこまでやるかはお任せします」なんてファジイなリクエストして申し訳ありません。
それにしても、こんな職人さんには是非ともお会いしてお話をうかがっておきたかった。

ご冥福をお祈りいたします。
先日デポさんをお訪ねした折、腕のいい塗装業者さんがだんだん廃業してしまっているという残念なことを教えていただきましたね。
今回、職人さんが亡くなられたお話に対して不謹慎な申しようかもしれませんが、「いい話だな」と心に沁みるように感じました。
良い仕事をするために本気でする喧嘩は、いまこの国にどれほどあるでしょうか。
自分の立場を守るためだけの喧嘩は、掃いて捨てるほどありそうですが。

昭和の職人がまた一人旅立たれましたか。お疲れ様でした。

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